バードショット(ミカエル・レッド/フィリピン/2016) 亡霊が私を森へと呼んでいる

TIFF20163本目。鳥映画タームに突入だ!ちゃんとみてなかったけどよくみたらフィリピン映画でした。ダイ・ビューティフルに続き連ちゃんフィリピンです。そしてワールドプレミアだった!なんとなく得した気持ち。

アジアの未来部門にエントリした作品で、監督作品が3作以内の新人監督が参加できる部門だそうです。ミカエル・レッド監督は2作目ということでしたが(1作目もTIFF出品で当時10代とのこと。今はいくつなんだろう?みた感じめちゃくちゃ若かった。プロデューサーの女性も若かった)、とてもそうとは思えないほど洗練された映画でした。

あらすじはこんな感じ。

2016.tiff-jp.net

オフィシャルトレーラーはこちら。

 

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公式サイトのサムネを見た瞬間、女と猟銃ときたらクールに決まってるだろ観るしかないね!ということでチケットを取りました。

上映が始まった瞬間から最後まで、野外撮影による美しいフィリピンの自然と俳優たちの表情、美しい構図、美しい光と影のコントラスト、美しいくすんだ色調の連続で、ミカイル・レッド監督、相当ビジョンがはっきりしている人なんじゃないかと感じた次第。スタイリッシュで、無駄なシーンだなとか曖昧な画だなと思う瞬間がほぼなかったです。途中もろイングロリアス・バスターズな場面もあったりして(床下に隠れるやつ。あれってイングロリアス・バスターズ以前にも引用元あるのですか?無知。)フフって思ったんだけど、タランティーノこの映画好きそう。あと、私はドゥニ・ヴィルヌーヴの「ボーダーライン」なんかも思い出したりしてました。

あと音楽の使い方もすんばらしかったです。サスペンスに対して過不足なし!の音楽でした。スマート。

 

ストーリーに関しては、フィリピンで起きた実話をいくつか組み合わせて作られていて、並行して走る主人公のマヤと新人警官の2つの物語が重なり合う1点はあるものの、サスペンスとして観ると新人警官側のストーリーにはっきりとオチがつかない構成になっていて、一瞬物足りなく感じます。でも、シビアなフィリピンの現状を描いた作品でもあるとは思うけど、社会派映画というよりか、むしろもっと抽象化されたテーマをエンターテイメントとして昇華している映画なのかなと思いました。だから、警官側の事件としてのオチは本筋とは直接関係ないともいえるので省略されたのかもしれない。なにより、それを補って余りある画力だった。

なかでも素晴らしかったのは主人公のマヤのキャラクタ造形で、黒い長い髪をなびかせて赤いスカーフを巻き、猟銃を背負って黒い猟犬をつれている所在なさげな姿はほぼ完ぺき。ティーチインに主演女優のメアリー・ジョイ・アポストルもいらっしゃってて、これまで演技経験がないとおっしゃっていて驚いたけれども、彼女のアイコンとしての魅力が背骨となって映画をしっかりと支えていたように思う。ティーチインで機会があったのでマヤのキャラクタ造形について質問してみたところ、監督はマヤはまさに絶滅危惧種のフィリピン鷲のようなピュアネスの象徴である的なことをおっしゃっておりました(どうでもいいけど監督クールなイケメンで質問するのに無駄に緊張しました)

マヤと新人警官は、最初は同じような純粋さ潔白さを持っていて、それ故に森からやってくる死者の声に感応する力(神の声を聴く力なんですかね)を持っているんだけれども、社会や大人の軋轢から徐々にそのピュアネスを失わざるを得ない状況に追い込まれる。で、新人警官は途中でそれを手放してしまうんだけど、マヤは最後まで手放さない。

これはなかなか意外で、私は引き金を引くと思いましたよ。ダークヒーローとして社会から逸脱して戦うのかと思ったらそうはならない。彼女はフィリピン鷲のように保護区の森の中に分け入っていく。そして、彼女がピュアネスを手放さなかった結果、本当にそこで起こった真実を知る権利が与えられる(監督談)。タランティーノの映画だったらぜったいぶっ放してたよねあれ。

そのラストは意外でした。アイコンとして象徴的な姿をした猟銃を抱えた女性が、初潮を迎えて理不尽に猟犬を奪われ父親を奪われて、それでも最後に引き金を引かない決断をするっていうのはなんていうか、監督の作家性を感じた。引き金を引かないことが強さの象徴っていう。正直、意外性あった。ミカイル・レッド監督の今後にすごく期待したいです。次回作も観たい。ていうか1作目も観たい。あとマヤが出てくる映画で続編もう一本観たい。

とても美しい映画でした。フィリピン映画の未来は明るいね。