ベルファスト71(ヤン・ドマジュ/イギリス/2014)

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とりあえず見た後はイギリスって書くのが嫌になりますね。2015夏に見逃してからずっと気になってたんだけど、これは〜期待通りめちゃくちゃ良かったです。スリラー的な演出やアクションとドラマのバランスがとてもよくてですね。DVD買おう。

 

映画の序盤、小さなさざ波だった人々が群衆になると巨大な暴力のうねりになり、うねりに呑まれて唐突に魂の7割はただの一般人だった青年兵士が殺されてしまうシーンなど、その演出の手並みの鮮やかさに、主人公たちと一緒に呑気にニヤニヤしていた私は
突き放されて呆然としまったのだった。思わず声を上げてしまった。

もう一つ、主人公が止むに止まれずナイフで相手を殺してしまうシーン、他に全く選択肢がなく、だがこんなことは誰も望んじゃいなかったとばかりに刺した相手の命を惜しむオコンネルの無言の演技が素晴らしい。セリフはすごく少ないけれど、感情移入させられる主人公だった。

 

IRA過激派の青年のひとり、登場時は能面が張り付いたような不気味さの青年、映画を見終わるときには人間の顔に見える。カソリックへの抵抗を語り爆発で死ぬ少年も、不気味さと子どもらしさを同居させる。アイルランド内部のカソリックプロテスタント対立を煽るイングランドの諜報部ですらやはり最後には人間で、じゃあ一体この血は誰が望んで流すのか。もうこの不毛なリングからは降りたいよ。

 

ここ最近みた英国映画でアクションてなるとテンポが良くて小気味いいチャキチャキした感じのが多かったんですけど、オコンネル特集の2作は、余計な言葉や状況説明は省いて、代わりに感情的な余白を読み込む間合いをしっかり撮るカットが多くて、役者の演技が練り上げるドラマがアクションを支えてるのが、最高にクールだなと思いました。スマートだわん。最初の銃撃戦での逃走めちゃかっこよかった。


観ていてわたしは塚本版野火を思い出していました。ベルファスト71は過去の事件を扱ってますけど、いまとてもタイムリーな映画だなと思う。ほんと、どの口で紳士の国だよと思ってしまったよね。まあどの国もある程度はやってることなんですけどよお。

名もなき塀の中の王(2013/イギリス/デヴィット・マッケンジー)

20160206、池袋文芸坐にて鑑賞。友の会に入りました。

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ジャック・オコンネル特集でベルファスト71と抱き合わせで鑑賞。

さほど前情報なしでみたんですが面白かったです!ドキュメンタリっぽい撮り方なんだけど、決め絵は綺麗に押さえてくるクールな印象。余計な説明的カットや台詞がまったくなくてそれもまたスマート。ストーリーはわりとストレートな、愛を知らずに怒りに支配されてる青年の成長物語なんですが、暴力描写も俳優の演技も説教臭さを排除していてとても良かった。

主人公のエリックがカウンセラーを小児愛好者と揶揄するところなんか良かったです。同情と偽善は差別と蔑視と同義ってちゃんと言い切るところで、説教臭さを掻き消す切実さがある。オコンネルは初見だがとても良かったです〜。タロン・エガートンもいいけどこちらもよろしく。オコンネルは、爆発的なエネルギーを体の内側にギュと抑え込める俳優さんすね〜。ぐっと押し黙る表情と、それが表出したときの爆発力がすごかった。硬派なんだけどナイーブさもあり、でもそれをことさらに出すでもなく翻弄される若者を良く表現していたように思う。ちょっとチャニング・テイタム思い出しましたね。あそこまで所在なさげな感じではないけども。

 

エリックの父ちゃん、ムショ牛耳ってるわすぐ怒鳴るわ恋人(メンズ)できてるわ息子には過干渉だわでほんとダメダメなんだけど、タイムリーなことにちょっと清原思い出してましたね。私は。弱くて不安だから暴力に頼るのやな…。
いや、それらのことをしてるからダメダメなのではなく、ダメダメだからそれらのことをしちゃってるってとこがダメダメなのだ。

ロブスター(ヨルゴス・ランティモス/ギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス/2015)

 
20160330シネマカリテにて鑑賞。
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物語のテーマそのものは、それなりに納得している30代既婚者としてはうん…まあそういうこともあるかもね…という内容でございましたが、映画としてはかなり好きです。
 
終始喉に小骨が刺さったような違和感のある映画。食事をしても着替えをしても会話をしてもダンスをしても運動をしてもセックスをしてもぎこちなく居心地が悪い、つがいでいることを強いられた人たち。つがいになって社会生活を送ること自体がとても不自然なことなんだね。
 
じゃあ独りでいることが自然で自由なのか。残念ながらそうじゃなくって、独りで好きなように踊っても、食べても、眠っても、マスターベーションをしてもぎこちないし居心地は悪い 。
 
独りでいようがつがいでいようが、生きてることが不自然で不自由なことなんだな。世界と私の間には違和感違和感違和感。つがいの強要を否定して森の中で見つけた相手が真実の相手ならいいけれど、そこで行われるつがいの儀式はホテルで行われることとなんら変わらんのや。
レストランで取り残された彼女の元に彼は戻ってくるのか。どうしたら正しく自然なのかしら。
 
カタルシスがあるのはいつもハンティングの時だけなのだった。ハンティングが行われる瞬間のスローモーションのシーンが素晴らしく、スローモーションとは瞬間の拡張だし、スピードが上がるってことなんですね。
 
その他。コリン・ファレルのだらしない腹が愛らしい。ゲイっぽくないベン・ウィショーは久々です。ボーダーコリー飼いたい…って思ってたら横っ面ビンタはられました。
森を抜けて枯れ草の中をスーツで走るシーンもとても美しかった。あとプールで背泳ぎ最高。
 
ハンティングする女って素敵なモチーフだよね〜。ミケル・ゴメスの熱波など。猟銃を持った女はよきものよ。

 

シャーロック忌まわしき花嫁(ダグラス・マッキノン/イギリス/2016)

20160304としまえんにて鑑賞
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映画というかテレビ映画?で、演出的にうんまあという部分もありつつ、メイン舞台が19世紀ロンドンのゴシックっぽい雰囲気で全体的に暗めなので映画館で見られてよかった。テレビだと暗すぎるのではなかろうか。白状すると、S3がさほど面白くなかったので最後の方の記憶が曖昧だったこともあり、途中のモリアーティとシャーロックの問答の最中でちょっとウトウトしました…。DVD出たら見直します。ライヘンバッハの滝のところはすごくよかったね!
 
なんていうかもうメタのメタのメタのメタって感じで、シャーロッキアンってみんなこうなのかなとクスッとなった。オタクたちの贅沢な遊び。現実の19世紀SH(現実といっても実際は存在しない、でもシャーロッキアンにとって原典が現実だからな)、ワトソンくんの著作物の中の19世紀SH、21世紀シャーロックの中の19世紀SHとワトソンくん、19世紀SHのなかの21世紀シャーロックとワトソンくん、というように、いろんな階層のシャーロック・ホームズが錯綜します。まさにシャーロック・ホームズってそういう存在だよね。わたしは中学生ぐらいまで実在の歴史上の人物だと思ってました。
シャーロック・ホームズとは何かってことを重々踏まえたうえでのパロディでもあり、原典の本質も損なうこともなく、良質なドラマやな~。カンバーバッチもマーティンもちゃんと19世紀と21世紀で違う(けど本質は近い)っていう絶妙な演技をしていて本当に達者だなと思った。
 
シャーロックについては、視聴者がついて元ネタについてこれないかもしれないっていう心配を微塵もしてない振り切れ方が好ましいなと思います。みんな好きだもんねシャーロック・ホームズ。大丈夫。見るたびに原典読みたくなる良いドラマだと思います。
 
その他。レストレードさんは19世紀でもチャーミングでかわいかった。お兄ちゃんは原典どおりちゃんと太ってて迫力がしゅごい…モリーの男装めっちゃかわいい。s4ではモリアーティ帰ってくるってこと??だよね??楽しみです。S3見なおしたほうがいいな。
シャーロックはブロマンスだけどマッチョでホモソーシャルな世界に対する皮肉な視線が常にあって、なんつ~かフェミニンだよねちょっと。出てくる強い女性たちも男性的というよりか賢くたおやかで女である強みを否定しない、なんつーかすごく洗練されてるなっておもいます。
 
会社の同僚のシャーロッキアンに勧めてあげようなと思いました。

オデッセイ(リドリー・スコット/アメリカ/2015)

20160304、としまえんにて鑑賞
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たぶんこの映画の推進力は知性とか学問が照らす光みたいなもので、そのオプティミスティックな輝きが悲劇を喜劇に反転させる、その軽やかさを期待してみていたわけですが、ちょっと~~~~中途半端な??GGでコメディ部門になってたからもっとコメディなのかと期待してましたがそんなこともなく。いまいち状況に対する感情の踏み込み(それは喜びも悲しみもおかしみもですけど)が甘いので、コメディっぽさが上滑りしているというか、映画全体がぼけっとしていた印象。
 
主演はマット・デイモンでよかったのかな?なんかもうちっとファニーな感じの人のほうが…とにかく踏み込みが甘いと感じてしまった。宇宙工学?の学生役をやっていたドナルド・グローヴァーがよくて、ああいう類の軽やかな推進力を期待していました。指輪物語のくだりかわいかった。
 
レイティングの関係もあるのか、明らかに編集でカットされてる会話もあったりして、ディレクターズ・カットがあったらもっと面白いのかもしれない。赤茶けた火星の風景の中でしばしば佇むマット・デイモンのバックショットは美しかったです。
 
あと哀しみと喜びを軽やかさとともに運んでくるって言われるとどうしてもゼロ・グラビティのジョージ・ルーニー思い出しちゃって、あれは軽やかさの根ざしているところが全然違うので比べるものではないとわかりつつも、つい映画を見ている間もラジオのことを思い出していた。
 
話はずれるけどアカデミックな場面で通用するシニカルな冗談って理系文系問わずあると思うが、私はその倫理に配慮しない切れ味みたいなのが好きです。問題があり解決するには理論上こうなるじゃあやってみっか怒られるかもだけど!っていう合理性が持ってる明るさみたいなものに勇気づけられる。オデッセイに足りないのはその要素な気がする。よく唱えられる倫理感に配慮しない感じが欲しかったんだな。
 
これにはかなり異論があるとは思いますが、わたしはオデッセイよりプロメテウスの方が好きです。