ダイ・ビューティフル(ジュン・ロブレス・レナ/フィリピン/2016) 美しく生き美しく死ぬ

TIFF2016の2本目はコンペ部門。あらすじはこんな感じ。シエラネバダに続き葬式映画でしたね。

2016.tiff-jp.net

161027EXシアター六本木にて鑑賞。

フィリピン映画!トランスジェンダーである主人公の女性の波乱万丈な生涯を葬式の日から振り返っていくハートフルストーリーというにふさわしい内容でした。もうテーマ聞いた時点で泣いちゃう映画なの間違いないよなと思って見に行って、案の定涙するという。

ストーリーテリング的な部分ではちょっと拙いところもあったかなという気がして、子どもを育てるくだりをもう少し生かせなかったのかなと思ったり、特に序盤、時系列が入り乱れる部分で今誰のどの話をしているのかと戸惑う部分があった。しばらく見ていればすぐわかるので問題があるというほどではないけど、もう少しスマートに導入できたような気はします。あと、葬式中毎日セレブの顔になるという設定も、彼女の美しさがなんなのかという話ともう少しうまく絡められなかったかなという気もした。

 

しかしそれより何より、主役のトリシャが本当に美しくてチャーミングでパワフルでね。悪い男に騙されたり、肉親から辛い言葉をかけられたり、彼が望む姿をするだけで指を刺されて笑われたり、喜怒哀楽のつまった人生を、強く美しくサバイブしていく姿にぐっとこない人がいようか。カラフルな画面も衣装もすごくかわいくて(おうちの柵の色かわいい過ぎない?)、フィリピンに行ってみたくなる映画だった。あと、ちょっとフェリーニの「カビリアの夜」を思い出しましたワン。とにかくチャーミングなんだよヒロインが。

ただ、私が涙してしまった要因は他にもある。トリシャはトランスジェンダーとしてミスコンに出まくって、男性である自分の身体を自分の愛すべき形に改造していく。神様からもらった身体をこんなにきれいにして返すんだから喜んで!と嘯く彼女は美しかったけれど、この映画はコメディでもあるんですよね。私はそのコメディ部分というか、男性が女性になっていく過程で笑いが起こる「滑稽さ」みたいなものをどう扱っていいものやら、観ながらちょっと悩んでしまった。

男性が女性になろうとしていくその過程で「滑稽さ」という要素は否定はできなくて、映画の中でもコメディとして、笑いをとる要素としてそれは描かれていて、実際に会場でも7変化するトリシャの死に化粧や仲間のトランスジェンダーたちのカラッとしたバカ騒ぎに笑いが起きたりしていた。

でも私は会場で笑いが起きるたびに、なんか釈然としなかったんですよね。だってなりたい自分になろうとしてるだけなのになんで笑われなきゃいかんのかみたいな気持ちが沸いてきて。もちろん作中に登場するトランスジェンダーたちはその滑稽さなんか織り込み済みで、軽やかにそれを笑いに変えていくんだけど、でもそれを観客である私が笑うのってなんか釈然としなかった。これを笑うのは、トリシャをもてあそんでレイプした男たちと根幹では同じことなんじゃないのか?と考えているうちに観ながら涙が出てきた(ちなみに私はセックスもジェンダーも女性で男性と結婚しています。こどもはいません)。すごく複雑な気持ちになりました。これは映画の話というより私のジェンダー観の話ですねすみません。

ティーチインがあったのでぜひこの映画のコメディ的要素についてどう考えているのか監督に聞いてみたかったけど、残念ながら時間切れでした。無念。

 

トリシャを演じたパオロ・バレステロスは実際は女性のパートナーとお子さんがいるとお話しされていましたが、見事に美しいトランスジェンダーを演じきっていた。上映後涙してらっしゃったけれど思わずもらいなきしてしまったよね。