ヒメアノ~ル(吉田恵輔/日本/2016) 終わりは突然に、だけどゆっくりやってくる

20161002 早稲田松竹にて鑑賞。

公式サイトはこちら

www.himeanole-movie.com

2本立ての2本目です。ディストラクション・ベイビーズを主な目的として見に行ったんですが、率直に申し上げてヒメアノールの方が面白かった…。嬉しい驚き。監督・脚本の吉田恵輔監督は過去撮ってる作品を観た感じ、いわゆる商業監督さんなのかと思っていたんですが、塚本組の照明さんでいらっしゃったのですね。そして森田剛くんは映画初主演なのかな。誠にもったいない話だよ。とてもよかったです。しかしこの内容でよくレイティングをR15+に収めたし、よく事務所もOK出したよね。製作に入ってたけど…本当にキワキワのラインを狙っていて、商業映画の興行として素直にイイネ!と思った。

 

まず、絶対に書かなくてはならんのはタイトルコールのすばらしさです。今年観たすべて映画の中で一番かっこよくて最高なアーバンタイトルだったしタイトルコールでした。音楽と一緒にタイトルが出てきたとき、あまりのかっこよさに思わず映画館で声をあげてしまったし、笑顔が止まらなかった。ぜひ、見た人にもあの感覚を味わってほしいので詳しくはかかないんだけど、本当によかった。最高。近年ではガーディアンズオブギャラクシーに匹敵するタイトルコールのかっこよさだった。

古谷実の原作は未読なんですが、ヒミズシガテラ、わにとかげきすあたりは読んでいます。好きです。で、映画化に際してすごく上手に古谷実漫画のテンションを映像にしていてすごく感心してしまった。日常/非日常、生(性)/死、平穏/不穏の裏表が笑いとシニカルと暴力と諦観で描かれていくっていうのが古谷作品の基本的なスタイルだと思うんだけど、それを演技と演出でうまく表現している。岡田(濱田岳)の日常が非常に漫画的な演出で描かれてるのに対し、森田くん(森田剛)の日常は等身大で実寸大で劇画なんですよね。デフォルメされていなくて輪郭がぶれている。森田の初登場時、カフェで項垂れてタバコを吸っている彼が、お~岡田く~んと発声した瞬間に、違和感の隙間から不穏が流れ出す。その後のベンチで喫煙を認めないシーンも、撮り方によっては笑えるはずなんだよね。でも演出と演技が劇画だからその不条理と滑稽さが怖い。その点において森田くんの演技も出色だったと思います。

もう一つ素晴らしかったのはゴア表現で、「死んでいる」じゃなくて「死んでいく」が見えるのがとてもよかった。生が徐々に失われる過程とセックスが重なって、それが森田の自慰行為に結実するんですけど、まあ見事だなと思った。特に素晴らしいなと思ったのは、森田が久美子を撲殺しているシーン(あれをお尻側からあの距離で撮るのすげえ)に岡田とユカ(佐津川愛美)のセックス(後背位です。だよね。)が差し込まれるシーンと、警官の胸に包丁(万能包丁イェ―。)をゆっくり差し込むシーン、あとこれは過程というわけじゃないけど、過去、草むらでいじめっこを殺したあとに森田が自慰するシーンでした。森田くんの自慰シーンは全体的によかったよね。教室での理不尽な世界への諦観と平熱の視線もすごくよかった。

で、他にも滑稽と残酷の絶妙なバランスとかいいところたくさんあったんですが、最後に結末について。

理不尽に倫理を剥奪されて世界の外側に弾き飛ばされてしまった森田が、それならそれで仕方ないから俺は俺のルールで生きるそうして奪ったのはお前たちだと言わんばかりに繰り返す虐殺がどこに行きつくのかについて、彼を名前のない怪物として開放する(あらすじ見た感じ、原作はこっちの解釈なのかな)のではなく名前のある(失った)人間として帰結させたわけなんだけど、それについて岡田がした所業を森田が忘れているとか、なんでユカを狙ったのか全然描かれないとか、犬をよけようとしたところだとか、そんなあたりで森田くんを、私たちが安心するための装置の中に閉じ込めてしまわないようぎりぎり踏ん張ったのかなと思っています。最大限の譲歩だし、そのおかげで森田くんの最後の欠損がより活きたし、なにより森田くんの最後の演技も活きたと思います。

とにかくいろんな面でバランスの良い映画だったし、この俳優を使ってこの原作でこの題材を撮るっていう条件を最大限に活かした商業映画でもあったなと思った。

まだわからないけど、多分私の今年の10本に入ると思う。