ディストラクション・ベイビーズ(真利子哲也/日本/2016) ノイズがおれをかきたてる

20161002 早稲田松竹にて二本立てで鑑賞。

公式サイトはこちら 

distraction-babies.com

 

今年は意外なくらい邦画を見ています。豊作なのかな?例年がわからないから比較できないですが、見に行きたいと思う映画が多いのは良いことです。ちげえねえ。

ヒメアノ~ルとの二本立てで、こちらを先に観ました。前情報なしだったんですが、冒頭のノイズを聴いた瞬間になるほど向井秀徳、そして菅田将暉が登場したあたりまでを見て、なるほどザ・ワールド・イズ・マインとなりました。

 

泰良(柳楽優弥)の暴力は、なんの前提も言い訳も理由もなく、ただ砂を指でこすり合わせたときのジャリジャリという音と感触のようにノイズとしてくすぶり続けて、衝動は衝動でそれ以上でもそれ以下でもなく、ただ純粋で自由で透明な暴力でありつづける。

裕也(菅田将暉)の暴力が女性や老人に向けられるその卑小さは、泰良の暴力の透明さ・純粋さをより際立たせる。だけど、同時に裕也がもつ自己顕示欲や浅はかさや衝動も多分ノイズには違いないんだよね。その意味では裕也のノイズと泰良のノイズが一時的に共鳴する物語といえる(多分、だから泰良は裕也を殴らない)。

泰良の弟、将太(村上虹郎)も対照的に描かれる一人で、彼もまた泰良とノイズを共鳴させてるんだけど、彼のノイズは世間一般(育ての親や警察、友人、テレビに映る人々)の無神経な侮蔑、偏見、無理解との軋轢のために生まれるノイズです。上記の二人とはまた違う。

最後に、ともに逃避行をつづける那奈(小松奈菜)のノイズがある。ただ、彼女の扱いはちょっと難しかったなと感じました。泰良が彼女にむける「どやった?」は、彼女の生存本能とか、むき出しに触れてしまったものへの興味ってことだと思うんだけど、ちょっと女性性というものに頼りすぎではないかいと思ったし、女性性という根拠に頼るなら性描写はもう少し頑張って欲しかった。結果的に、彼女のノイズの描写の粗さが泰良の興味を少し軽率に見せてしまっているようにみえた。ワールド・イズ・マインもマリアはちょっと微妙だもんね。女のノイズを描くのは男性にとって難しいんだろうか。どうなんだろうか、私は女だからよくわかりません。

で、この手の物語は終わらせるのがすごく難しい題材で、じゃあ泰良の純粋な衝動はどこへ向かうのか。私は寄る辺なく放浪し続けるしかないと思うのだけれど、彼は故郷へ帰るんだよね。それは彼の衝動は社会の外側にある異常行動のように見えながら実際は内包されているものだって結論だと思う。

ただ、その結論ならその結論でいいんですが、単純に映画のストーリーとしてみると、戻ってくるならなんで出てったんやという疑問がひっかかちゃってですね。かなり表層的な部分で恐縮なのだが、物語としての合理性に欠けているなと感じた瞬間に我に返ってしまって、泰良の衝動の美しさにいまいち没入しきれなかったのでした。

あらゆる意味で若い映画だなと思った。真利子監督の今後が楽しみです。

 

俳優たちは軒並みすばらしくて甲乙つけがたいんですが、特に私は村上虹郎くんの美しさに目を見張りました。彼は兄を追いつつ軋轢の中でもがきながら段々自分の中のノイズを自覚していくんだけど、時々の眼差しや声の瑞々しさが素晴らしくて、特に後半、映画の重心はむしろ彼のノイズが軸足となっていく。それは演出上の意図したところなのか、結果的にそうなっちゃったのかわからないんだけど、泰良を食ってしまった印象を受けたのは事実です。ラストで泰良に神通力を感じないのも、そのせいもあるかもしれないな。どうかな…そう考えると、柳楽くんはちょっと割を食ってしまったかなと思います。でも柳楽くんもよかったんだよ。松山の繁華街をあてどなく独りでうろつくとき、雨ざらしになったブロック塀や錆びた鉄門みたいな色してるんだよ。すごく綺麗だった。

菅田くんも素敵にみみっちくって切実だったんだけれど、菅田くんが着ると何日も洗ってない工員の臭い作業着もしゃれたジャケットに見えちゃうんだなと思いました。